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美と技の宝庫 こんぴらさん探訪(香川県) 美と技の宝庫 こんぴらさん探訪(香川県)

御本宮を見上げて。大物主神と崇徳天皇を御祭神とし、古くから農業・殖産・医薬・海上守護の神として、たくさんの参拝者に仰がれてきた。国の重要文化財

01_瀬戸大橋や讃岐富士が一望できる御本宮前広場の展望台からの眺望

02_江戸時代末期の建築様式の特徴を示す金刀比羅宮旭社(あさひのやしろ)は、1845年(弘化2)に落成した四国最大の木造社寺建造物

03_大門から石畳が続く道は桜馬場(さくらのばば)と呼ばれる

04_水戸光圀の兄にあたる初代高松藩主・松平頼重が寄進した大門。ここまで来ると、随分上がったように思えるが、石段数はまだ半分に満たない

05_象頭山(ぞうずさん)の東斜面の中腹にある金刀比羅宮。表参道の石段沿いには、老舗から新店まで個性的な店が並んでいる

香川県仲多度郡琴平町の金刀比羅宮(ことひらぐう)は、古くから農業や殖産、医薬、海上守護などのご利益で信仰を集めており、「こんぴらさん」の愛称でも知られている。その象徴ともいえるのが、表参道から御本宮まで続く785段の石段。途中にある365段目の大門までは、土産物店や飲食店が立ち並び活気に満ちている。

一方、大門をくぐった先のご神域は、荘厳な雰囲気に身が引き締まる。海抜251mの御本宮にようやく着いて、目に飛び込んでくるのは、瀬戸大橋や讃岐富士が一望できる展望台からの眺望。御本宮の威厳ある佇まいとともに、道中の苦労を吹き飛ばしてくれる。

こうした参拝だけでは知り得ない美と技の宝庫としての姿、「こんぴらさん」を支える人たちを通して、その魅力を深掘りしていく。

表書院・虎之間の「遊虎図(ゆうこず)」は、画家・円山応挙(まるやまおうきょ)が16面の襖に8頭の虎を描いた。なかでも2頭の虎による「水呑みの虎」はよく知られている(写真提供:金刀比羅宮)
非公開の奥書院の障壁画「百花の図(ひゃっかのず)」は、江戸時代中期の画家・伊藤若冲(いとうじゃくちゅう)の作品。紫陽花や蓮、牡丹、菊など201の花が描かれている(写真提供:金刀比羅宮)
江戸時代から続く文人墨客との深い縁

江戸時代、庶民があちらこちらを見物しながら訪ね歩く物見遊山には制限がかけられていた。例外的に許されていたのが、寺社参詣のために他国へと往来すること。生まれ育った土地を離れたことのない江戸時代の庶民は、知人らと「講(こう)」という組織をつくって旅費を積み立て、団体で参詣へと出かけた。当時、お伊勢参りと並び人気を博したのが、金刀比羅宮への参詣。「一生に一度はこんぴら参り」ともいわれており、江戸時代の流行作家・十返舎一九(じっぺんしゃいっく)が、自身の参詣の経験を基に『金毘羅参詣續膝栗毛(こんぴらさんけいぞくひざくりげ)』を著したことも、その人気を裏付けている。また、『南総里見八犬伝』の作者である滝沢馬琴(ばきん)は、今でいうガイドブック『金毘羅船利生纜(こんぴらぶねりしょうのともづな』を執筆。こんぴらさん人気を押し上げた。

金刀比羅宮は文人のみならず、画家との縁も深く、特に有名なのは「奥書院」の上段の間に描かれた伊藤若冲(いとうじゃくちゅう)の障壁画「百花の図(ひゃっかのず)」。「若冲の襖絵は非公開となっていますが、表書院の円山応挙(まるやまおうきょ)や邨田丹陵(むらたたんりょう)の作品(襖絵)は、一般公開となっています(※)」と話すのは、学芸課の東上(ひがしうえ)由佳さん。

「表書院」は萬治年間(1658〜1661)に建てられたといわれる金毘羅大権現の客殿で、さまざまな儀式や賓客の接待のために使用されていた。「全7室のうち5室に応挙の襖絵が描かれており、いずれも技が円熟した晩年の作品。とりわけ山水図と瀑布(ばくふ)図は、部屋の前にある林泉(りんせん)(庭園)との一体感が感じられる名作です」と東上さん。イキイキと舞う丹頂鶴を描いた「芦丹頂図(あしたんちょうず)」、虎たちが清流で水を飲む様子を描いた「遊虎図(ゆうこず)」など、部屋ごとに完成された応挙の世界観に圧倒されるだろう。

※表書院の円山応挙・邨田丹陵の襖絵は2025年(令和7)12月下旬まで見られない。なお、12月15日まで表書院・高橋由一館で企画展を開催中

06_御本宮の創建年は明らかではないが、1001年(長保3)に一条天皇の勅命を受けた藤原實秋(さねあき)が改築したという記録が残っている

07_萬治年間に建築されたと伝えられる表書院。入母屋造、檜皮葺(ひわだぶき)の建物と障壁画は国の重要文化財(写真提供:金刀比羅宮)

08_表書院・山水之間と上段之間の「瀑布及山水図」は、円山応挙の最晩年の作品。滝が流れていく様子が描かれているが、その流れは部屋の前にある庭につながったかのように見せている

09_池泉庭園「林泉」は、象頭山(ぞうずさん)に降り注いだ雨が流れこむように設計されている

10_表書院「富士二之間」の邨田丹陵「富士巻狩図」は精密な筆致により巻狩(中世の軍事演習を兼ねた狩猟)が再現されている

日本の洋画の始祖と琴平山博覧会

金刀比羅宮と深い縁で結ばれたのは、「日本洋画の開拓者」と称される画家・高橋由一(たかはしゆいち)。「1879年(明治12)、金刀比羅宮では『第2回琴平山博覧会』が開催されました。全国から8万点以上の珍しい品々や技術が集められたのですが、その際、高橋由一の作品37点も展示されました」と説明するのは、学芸課の綾美菜子さん。博覧会は大盛況で、交通機関が未発達な時代にも関わらず、3カ月の会期中に約26万人が来場したという。

このとき、由一は作品を奉納という形で提供し、金刀比羅宮からは彼の画塾への援助が行われた。また、博覧会の翌年末から由一が金刀比羅宮での滞在制作を行ったという逸話からも、両者の良好な関係がうかがえる。こうした関係を今に伝えるのが、「高橋由一館」だ。現在、27点の由一の作品を所蔵しており、うち20点ほどを定期的に入れ替えながら展示している。「2025年8月、当館が所蔵する由一の作品が香川県の有形文化財に指定されました。日本で最初に油絵を本格的に描いた由一の功績を、当館を通じて知っていただきたい」と綾さんは願っている。

なお、金刀比羅宮が保有する国指定重要文化財や県指定文化財の総数は、今回の指定により1960点となった。

展示物もさることながら、建物そのものも注目されているのが、1905年(明治38)に開館した宝物館。香川県産の花崗岩を使用した石造りの2階建て、本瓦葺でありながらアーチ窓を取り入れた和洋折衷のデザインが目を引く。建物は国の登録有形文化財(建造物)、収蔵品の十一面観音立像は国の重要文化財に指定されている。また、主人の代わりに参拝する「こんぴら狗(いぬ)」の様子や、門前のうどん屋を描いた江戸時代の屏風絵など、当時の風俗を知ることができる作品も興味深い。

11・12_高橋由一館は、「鯛(海魚図)」や「二見ヶ浦」などの名作を収蔵。「日本洋画の開拓者」と称された高橋由一の世界にひたることができる

13_学芸課に所属している東上由佳さん(左)と綾美菜子さん。「文化施設としての金刀比羅宮にも注目してほしい」と声をそろえる

14_日本最初期に建てられた博物館である宝物館。設計者の久留正道はシカゴ万博で日本館を設計した人物

15_平安時代につくられた「十一面観音立像」。温和で端正な顔立ちが見る者を惹きつける魅力に満ちている(写真提供:金刀比羅宮)

伝統を重んじながらも進化する「こんぴらさん」

金刀比羅宮参拝者数は、年間400万人ともいわれている。文書広報課長で権禰宜(ごんねぎ)の岸本庄平さんは、「コロナ禍以降、海外からの参拝者が急増しました。その対応のために、英語や中国語、韓国語の案内を増やしています」と話す。またお守りなどの授与品のキャッシュレス決済への対応も進めており、現在はクレジット決済のみ可能だが、モバイル決済での対応も視野に入れている。

「金刀比羅宮といえば、こんぴら狗の伝承があるように犬とのご縁が深い神社。近年は愛犬家の参拝も増えています」と岸本さん。神札授与所で好評の「幸福の黄色いお守り」には、愛らしいミニこんぴら狗の人形付きがあったり、首輪型の犬用お守りを用意したり。2025年1月に地元の事業者が開催した愛犬と一緒に行う初詣「わん詣」にもたくさんの参拝者が訪れた。岸本さんは「愛犬も大切な家族の一員。他の参拝者に配慮していただきながら、ぜひ一緒にご祈願をしてください」と呼びかけている。

16_「1,368段を上り切ったところの奥社(厳魂(いづたま)神社)も、ぜひお詣りしてください」と岸本庄平さん

17_江戸時代に主人の代わりに飼い犬がこんぴら参りをしたという逸話から生まれた銅像「ゴン」

18_ウコン色で染めあげた「幸福の黄色いお守り」は、御本宮前の授与所で手に入れることができる。ミニこんぴら狗付きのお守りは特に人気

神事で活躍する新たな神馬が仲間入り

例大祭など金刀比羅宮の神事で、大きな務めを果たすのは神馬。2025年1月1日、約17年奉仕をしてきた月琴(げっきん)号が帰幽(きゆう)(神式で永眠のこと)し、関係者は大きな悲しみに包まれた。とりわけ最期を看取った神馬調教師の安藤幸洋(ゆきひろ)さんは「大きな喪失感でしたが、春に献馬された白平(しろひら)号(12歳)のおかげで、少しずつ悲しみが癒えています」と話す。

現在、金刀比羅宮には16歳の光驥(こうき)号もおり、安藤さんは1人で2頭の世話をしている。神事の際に堂々とした振る舞いをさせることはもちろんだが、2頭ともに白馬であることから常に美しい状態にすることも心がけている。

「馬はとても頭が良く、神経質。神馬舎を見学するときは、大きな声や音を立てず、優しく見守ってほしい」と願う安藤さんだ。

19_光驥号も2025年に献馬されたニューフェイス。「しっかりとお役目を果たせるよう、まずは私との信頼関係を築きたい」と安藤さん

20_白平の名前は一般公募により決められた。「海を守る灯台の白」「琴平や平和の平」などから名付けられたそう

365段目の「五人百姓」 500段目の「神椿」

初代高松藩主・松平頼重が寄進したとされる大門をくぐると、門前のにぎわいが嘘のように凛とした空気に包まれる。古くから神域での商いは禁止されているためだ。ただし禁制にも例外があり、金刀比羅宮の神事に奉仕する5軒、通称「五人百姓」は加美代飴(かみよあめ)というべっこう飴を売ることが許されている。飴は同じパッケージで売られているが、中身は各家の手作り。門前にも店を構えており、そちらでの購入も可能だ。

石段の500段目、境内の森の中にたたずむのは、「神椿カフェ」。かつて参詣の休憩地点としてお茶所があった場所に整備した、セルフスタイルのカフェだ。オープンテラスにはヤマガラなどの野鳥が遊びにきて、愛らしい姿で目を楽しませてくれる。

21_大きな傘の下で飴を販売する五人百姓。参拝者に優しく声をかけ、飴の試食を勧めてくれる

22_添えられた小さなハンマーで砕いて食べる加美代飴は鮮やかな黄金色

23_294段目の笹屋は五人百姓の1軒。加美代飴はここでも買える

24_「神椿カフェ」の店内。階下にはコース料理などを提供するレストランもある

25_バンズは香川県産のさぬきの夢、パティは讃岐オリーブ牛を使った「神椿ハンバーガー」

26・27_「香川県産和三盆や伝統菓子のおいりでアレンジした神椿パフェは人気No.1のスイーツです」と湊一茂店長

28_人によく慣れたヤマガラが愛らしい姿を見せてくれることも

29_「神椿カフェ」のお土産「こんぴらさんのこんぺいとう」は14日間かけ結晶化する昔ながらの製法で作られている

26段目の「YOHAKu26」 52段目の「紀の國屋本店」

「紀の國屋本店」は1882年(明治15)に創業。現在は3代目の前田進さん、美紀子さんが切り盛りしている。看板商品は、和三盆や香川県産の卵を使った「舟々せんべい」と「石松まんじゅう」。「9年前、娘夫婦のアイデアで、パッケージをリニューアルしてから、若い世代が手に取ってくれることも増えました」と進さん。近年は食べ歩き向けのバラ売りも好評だ。

4代目の前田沙織さんと夫の直希さんは、オリジナル商品などを扱う「YOHAKu26」を開店した。「誰しも旅先でお土産を買うときには、ワクワクしますよね。琴平らしいもので、他にはないもの、いつも使いたくなるようなデザインの土産品を提供できたら」と話す沙織さん。

にぎやかな門前町、石段を上るにつれて変化する空気感。宝物館や高橋由一館、表書院で目にした美と技の数々。新旧が融合しながら今へとつながるこの地の魅力にどっぷりと浸ることができた。

30_2店舗を経営する前田ファミリー。右から美紀子さん、進さん、沙織さん、直希さん

31_和三盆の上品な甘さに手が止まらなくなる「舟々せんべい」

32_2代目の公代さんが勧めてくれた「石松まんじゅう」は、ファンも多い一品。カステラ生地で自家製餡を包んでいる

33_若い女性ファンが多い「YOHAKu26」のオリジナル商品。「旅を日常の“余白”と捉え、旅で生まれた余白を日常に持って帰るというのがテーマ」という沙織さんの言葉通りに、日常を彩る「YOHAKu26」の商品。一番人気のだるまは、自分の好きな物と一緒に飾りやすいデザインを心がけたそう

社務所・神札授与所
緑黛殿
三穂津姫社
御本宮
奥社へ→
785段目
旭社
628段目
神椿
500段目
表書院
477段目
御厩
430段目
高橋由一館
宝物館
五人百姓
大門
365段目
五人百姓笹屋
紀の國屋本店
52段目
YOHAKu26
26段目
表参道
金刀比羅宮
住所 香川県仲多度郡琴平町892-1
電話番号 0877-75-2121
大門開門時間 6:00〜18:00
御本宮 7:00〜17:00
神札授与所 8:30〜17:00
定休日 無休
URL https://www.konpira.or.jp
宝物館・高橋由一館・表書院
住所 香川県仲多度郡琴平町892-1
電話番号 0877-75-2121
開館時間 9:00〜17:00(入館は16:30まで)
定休日 火曜日(祝・休日の場合は翌平日)
入館料 3館共通拝観券:一般1,500円、高・大生800円
宝物館・表書院:一般800円、高・大生400円
高橋由一館:一般500円、高・大生300円
各館中学生以下 無料
※表書院の円山応挙・邨田丹陵の襖絵は2025年(令和7)12月下旬まで見られない。なお、12月15日まで表書院・高橋由一館で企画展を開催中
神椿カフェ
住所 香川県仲多度郡琴平町892-1
電話番号 0877-73-0202
営業時間 10:00〜17:00(LO16:30、食事は16:00)
定休日 休館日あり。詳しくはHP参照
URL https://kamitsubaki.com
紀の國屋本店
住所 香川県仲多度郡琴平町983
電話番号 0877-75-2474
営業時間 10:00頃〜17:00頃
定休日 水曜日(臨時休業あり)
URL https://www.kinokuniya52.com
YOHAKu26
住所 香川県仲多度郡琴平町948-2
メール yohaku26@gmail.com
営業時間 13:00頃~17:00頃(季節や天候による)
定休日 月〜金曜日
URL https://www.yohaku26.com