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特集
さぬき名物 「アスパラガス」を愛する人たちを訪ねて
アスパラガスは、江戸時代の後期にオランダ人によって長崎県に持ち込まれたという歴史があり、当初は観賞用として栽培されていた。食用としての栽培が始まったのは大正時代だが、多彩な調理法で味わえるアスパラガスは、今や全国で栽培されている。また、疲労回復に効果があるとされるアミノ酸の一種・アスパラギン酸や、抗酸化作用のあるグルタチオンなど、豊富な栄養素を含んだ健康野菜としても人気が高い。
香川県では昭和40年代に水田転作作物としてアスパラガス栽培が普及し始めた。現在は約450軒の農家が栽培に取り組み、多彩なジャンルの料理人が生み出すアスパラガス料理は、新たなさぬきの名物として根付こうとしている。そこで、アスパラガスの人気を支える生産者やイベントの仕掛け人など、アスパラガスを愛する人たちを訪ねた。
たくさんの魅力を秘めた香川県独自のアスパラガス
香川県のアスパラガス栽培は、「メリーワシントン」という海外の品種から始まった。当時は露地栽培で、一度植えると5年以上収穫を続けられ、その育てやすさが普及を後押しした。一方、生産者が増えるにつれて、関係者は他の産地との競争に勝ち抜くための方策を探り始めた。香川県農業試験場では、1996年(平成8)よりオリジナル品種の開発に着手。試験栽培を繰り返し、2005年(平成17)に品種登録されたのが「さぬきのめざめ」。甘みの強さや太さ、柔らかさなどが際立っており、ハウス栽培であれば、従来の品種と比べて1週間ほど芽吹きが早い。さらに「さぬきのめざめ」は1月から10月末まで収穫できるのだ。しかも春先は通常のアスパラガスの長さの2倍ほどで出荷することが可能。特別感があり、ブランド価値を感じさせることができる。その競争力の高さから、多くの生産者がこの品種に注目した。今や県内で生産されるアスパラガスの8割以上がこの品種だ。
アスパラガス農家として新規就農をしたのは、東かがわ市の「16Farm(イチロクファーム)」の山下弘さん。18歳から30歳まで造園業に就いていた山下さんは、「違う分野の仕事をやってみたいと思うようになり、農業をしている友人に『無給でいいから手伝わせてほしい』と頼み込んだんです」と話す。肉体的には決して楽ではなかったが、収穫できたときには、それが吹き飛ぶくらいの感動が得られた。農業を新しい生業にしようと考えた山下さんは、JA香川県に相談。最短で技術や知識を身に付ける方法として、農業インターン制度を紹介された。
これは1年間、先進的な農業に取り組んでいる農業法人などで研修が受けられる制度で、修了後は組合管内で農業をすることが条件となっている。山下さんはすぐに申し込みをし、東かがわ市の農事組合法人で研修が受けられることになった。
研修と「休眠期」を経ていよいよ栽培に着手
就農を考え始めたときから、山下さんは「せっかくだったら香川県ならではの農産品をつくりたい」と「さぬきのめざめ」を柱にしようと決めていた。研修先はスマート農業を導入しており、パソコンやドローンなどを駆使して、品質の向上と収穫量の増加に繋げていた。ここで学びに満ちた1年間を過ごすことができたが、研修が終了した2022年(令和4)3月は、すでに「さぬきのめざめ」の収穫が始まっている時期。
そこでこの年の栽培は諦めて、祖母が所有していた約2000㎡の畑を活用し、オクラやブロッコリーなどを育てながら、アスパラガス用のビニールハウスの準備に取りかかった。研修中に「試してみたい」と思い付いたことはたくさんあった。焦る気持ちがなかったと言えば嘘になるが、「アスパラガスには休眠期という養分を蓄える期間があります。この1年は私にとっての休眠期だと自分に言い聞かせて、1年後の収穫のために黙々と作業しました」。
その年の秋、真新しいハウスで、いよいよ「さぬきのめざめ」の栽培が始まった。
asparagus豆知識
アスパラガスは多年草。定植後、1〜2年かけて育てた株により、10年ほど収穫ができる。「さぬきのめざめ」は、11月〜1月の休眠期に貯蔵根に養分を蓄えさせて、2月頃から伸びてくる若茎を摘み取り収穫。収穫作業は10月末まで、ほぼ毎日行う。
年年歳歳、変化し進化する栽培方法
「農業はつくり手の創意工夫が味や収穫量に現れます。今年で4回目のシーズンになりますが、毎年ブラッシュアップしています」と山下さん。5棟に増えたハウス毎に肥料の設計、水の与え方、温度管理を変えることでより良いノウハウを蓄積しようと奮闘中だ。なかでもこだわっているのは土づくり。山下さんは牛糞など有機肥料を与えることで、ふかふかとした土に仕上げている。
近年は高齢化により農業を引退した方から「畑を引き継いでほしい」と声をかけられることが増えた。1人で作業をしている山下さんに時間的な余裕はまったくないが、「耕作放棄地を増やしたくない」と可能な限り引き受けているそう。
一昨年は線状降水帯により、畑が池のようになり、大変な目にあった。「何が起こるか分からないけれど、身をもって学びながら対策するのが実は面白いんです」。
ここ最近は「お客さまの顔を見たい、声を聞きたい」とマルシェなどのイベントに積極的に参加している。マルシェでは長さ40cmもの「さぬきのめざめ」を販売しているが、目を丸くするお客さまの様子に彼自身もうれしくなる。「分からないことだらけで、しんどいこともありますが、とても充実しています」。アスパラガスのように真っ直ぐに、この道を歩み続ける山下さんだ。
16Farm
- https://www.instagram.com/16.farm/
- 産直アウル
- https://owl-food.com/sellers/4286
- 備考
- JAへの卸のほか、産直アウル、東かがわ市のふるさと納税返礼品としても取り扱いがある。イベント出店はSNSで確認を
みんなで楽しむアスパラガスの収穫祭
きめる國見さん(左)と末澤さん(右)
今や香川県を代表するイベントの一つとなった「アスパラ大騒ぎ」は、2013年(平成25)に第1回が開催された。アスパラ大騒ぎ実行委員会の國見香須子さんは、「イタリアで修行経験のある料理人が『収穫祭文化』の話をしてくれて、最高に楽しそうだなと思ったのが発端」と話す。
収穫祭といえばスペインのトマト祭やドイツの白アスパラ祭が有名だが、イタリアでは年中どこかで収穫祭が行われており、普段は人口の少ない村にどっと人が押し寄せてくるという。例えばブロッコリーの収穫祭なら、その日は町中の飲食店がブロッコリー料理を提供し、パレードなどのさまざまな催しで賑わう。
食べることが大好きで、「香川で収穫祭なら、どこでもできるじゃん!」と考えた國見さん。また別のシェフから「アスパラガスは前菜からデザートまでさまざまなアレンジができる、ポテンシャルの高い野菜」と聞き、これに目をつけた。ちょうど香川の「さぬきのめざめ」がメジャーになりつつある時期だった。料理人、生産者、お祭り好きが集まり、第1回は仏生山温泉で開催し、5店が参加。音楽家でもある生産者の演奏に耳を傾けながら、食事を楽しむ来場者の姿も見られた。
スモールスタートながら、思ったより人が集まり、参加者の興奮を肌で感じた國見さんたち。翌年には第2回を高松丸亀町壱番街のドーム広場で開催。参加店舗は一気に11店に増えた。
どんどん育っていく「収穫祭文化」を共有する場
以降も場所を変え、仲間を増やしながら続けてきた「アスパラ大騒ぎ」。状況が大きく動いたのは、高松市中央公園を開催場所にした2019年(平成31)。驚いたことに、来場者は約1万人に膨れ上がった。「これは大変! と内心は焦りました(笑)」とスタッフの末澤千津さんは振り返る。もともと実行委員スタッフは、利益を目的とはしておらず、アスパラガスの収穫をみんなで喜び楽しむため集まってきた。仲間うちの「楽しい」が、知らず知らずに大きなうねりになっていることを実感した。
「アスパラ大騒ぎ2025」には、生産者11店、アスパラガス雑貨と衣類6店、アスパラガス料理35店の出店の他、ワークショップや香川県農業試験場の無料相談コーナーを設け、ステージではバンド演奏や紙芝居などのライブが終日行われた。会場のあちらこちらに行列ができ、アスパラガス料理を頬張りながらイベントを満喫する人であふれた。
イベントが育っていくなか、実行委員会には大切な指針がある。それは「ダサいデザインは入れない」。「説明は難しいんですが、催しにしても出店者の提供するアスパラガス料理にしても、きちんとクオリティを保つというのは、譲れないポイント。そうしないとお客さまも楽しめませんし、自分たちもやる気になりませんから」と國見さん。また、毎回、必ず新しいモノやコトを取り入れることも心がけている。毎年、このイベントに足を運ぶリピーターも多いため、単なるグルメや物販のイベントにならないよう、「収穫祭文化」にアートや音楽、クラフトマンシップを感じてもらえるような、豊かな価値を共有できる場としている。
今年4月12日、「アスパラ大騒ぎ2026」は間もなく開催される。高松市中央公園が再整備工事に入ったため、会場はサンポートエリアに変わる。場所は変わるが、今回も「大騒ぎ」になることは間違いなさそうだ。
アスパラ大騒ぎ2026
- 開催日時
- 4月12日(日)11:00~16:30(予定)
- 会場
- サンポート高松 多目的広場
- https://www.instagram.com/asparaosawagi/
- https://www.facebook.com/aspara.kagawa/
- ホームページ
- https://r-suttamonda.com/
- 備考
- お問い合わせはSNSから


















