ライトアンドライフWeb

四国電力が発行する広報誌

日本遺産を訪ねる “修行の道場”で出会ったお接待の風景

特集

日本遺産を訪ねる “修行の道場”で出会ったお接待の風景

日本遺産を訪ねる “修行の道場”で出会ったお接待の風景

弘法大師ゆかりの札所を巡る四国遍路は、日本を代表する壮大な回遊型巡礼路。1200年もの歴史を誇るとされており、各寺院や巡礼中に出会う四国の美しい風景、風習も含めて「日本遺産」に認定され、大きな注目を集めた。なかでも特筆すべきは、四国遍路を支えるお接待文化。四国に住む人は、「お遍路さんは弘法大師その人である」と考え、食事や宿などを無償で提供してきた。また物品だけではなく、温かい声がけなども大切なお接待。こうした温情に触れることでお遍路さんは勇気をもらい、最後まで歩き通せるのかもしれない。

高知県は四国遍路で最も移動距離が長く、「修行の道場」と呼ばれている。札所間の距離も長く、ここで遍路を断念しそうになるお遍路さんも多いという。そうしたお遍路さんを励まし、支えている人たちを訪ねて、未来に残したいお接待の風景を探した。

のどかな田園風景に佇む松本大師堂は住民の心の拠り所
のどかな田園風景に佇む松本大師堂は住民の心の拠り所
台湾からのお遍路さん。背中のデイパックには、「同行二人」の文字と梵字、日本と台湾の国旗をあしらっている
台湾からのお遍路さん。背中のデイパックには、「同行二人」の文字と梵字、日本と台湾の国旗をあしらっている
台湾からのお遍路さん。背中のデイパックには、「同行二人」の文字と梵字、日本と台湾の国旗をあしらっている
台湾からのお遍路さん。背中のデイパックには、「同行二人」の文字と梵字、日本と台湾の国旗をあしらっている
「ここでお接待を受けるのは2回目」という福岡からのお遍路さん
「ここでお接待を受けるのは2回目」という福岡からのお遍路さん
法話でお接待をする僧侶の小笠原廣峰(こうほう)さん
法話でお接待をする僧侶の小笠原廣峰(こうほう)さん
道中で知り合った香港の女性お遍路さんと、フランス人お遍路さんたち
道中で知り合った香港の女性お遍路さんと、フランス人お遍路さんたち
風自遊庵の近所には、地域猫がのんびりと歩いている
風自遊庵の近所には、地域猫がのんびりと歩いている
豊かな自然の息遣いを感じながら足摺岬を歩くお遍路さん
豊かな自然の息遣いを感じながら足摺岬を歩くお遍路さん
お遍路さんを接待しながら会話を弾ませる風自遊庵の石坂さん夫妻
お遍路さんを接待しながら会話を弾ませる風自遊庵の石坂さん夫妻
有田久哉さんが開いて、約10年が過ぎたという雪壽庵
有田久哉さんが開いて、約10年が過ぎたという雪壽庵
雄大な太平洋の景観が見渡せる足摺岬の遍路道
雄大な太平洋の景観が見渡せる足摺岬の遍路道
のどかな田園風景に佇む松本大師堂は住民の心の拠り所
台湾からのお遍路さん。背中のデイパックには、「同行二人」の文字と梵字、日本と台湾の国旗をあしらっている
台湾からのお遍路さん。背中のデイパックには、「同行二人」の文字と梵字、日本と台湾の国旗をあしらっている
「ここでお接待を受けるのは2回目」という福岡からのお遍路さん
法話でお接待をする僧侶の小笠原廣峰(こうほう)さん
道中で知り合った香港の女性お遍路さんと、フランス人お遍路さんたち
風自遊庵の近所には、地域猫がのんびりと歩いている
豊かな自然の息遣いを感じながら足摺岬を歩くお遍路さん
お遍路さんを接待しながら会話を弾ませる風自遊庵の石坂さん夫妻
有田久哉さんが開いて、約10年が過ぎたという雪壽庵
雄大な太平洋の景観が見渡せる足摺岬の遍路道

松本大師堂(まつもとだいしどう)

生まれ変わった大師堂を松本地区の拠り所に

松本大師堂をバックに、松本地区の人たちとお遍路さん。「こんな風に撮った記念写真が私たちの宝物なんです」と代表の依光さん(前列右から2人目)
松本大師堂をバックに、松本地区の人たちとお遍路さん。「こんな風に撮った記念写真が私たちの宝物なんです」と代表の依光さん(前列右から2人目)
自家栽培の野菜を使った麺類やご飯ものに加えて、高知県らしい旬のフルーツや手づくりのお菓子が並ぶ。どれもおいしそう!
自家栽培の野菜を使った麺類やご飯ものに加えて、高知県らしい旬のフルーツや手づくりのお菓子が並ぶ。どれもおいしそう!
住民たちも一緒に料理を囲み、気取らない時間が流れる。辿り着いた時には疲れた表情だったお遍路さんも、やわらかな笑顔を浮かべる
住民たちも一緒に料理を囲み、気取らない時間が流れる。辿り着いた時には疲れた表情だったお遍路さんも、やわらかな笑顔を浮かべる
スマホの翻訳アプリを駆使し、いろいろと質問。一時は英語の勉強をしていたこともあるが、「結局は気持ちがあれば大丈夫」と笑う
スマホの翻訳アプリを駆使し、いろいろと質問。一時は英語の勉強をしていたこともあるが、「結局は気持ちがあれば大丈夫」と笑う
松本大師堂をバックに、松本地区の人たちとお遍路さん。「こんな風に撮った記念写真が私たちの宝物なんです」と代表の依光さん(前列右から2人目)
自家栽培の野菜を使った麺類やご飯ものに加えて、高知県らしい旬のフルーツや手づくりのお菓子が並ぶ。どれもおいしそう!
住民たちも一緒に料理を囲み、気取らない時間が流れる。辿り着いた時には疲れた表情だったお遍路さんも、やわらかな笑顔を浮かべる
スマホの翻訳アプリを駆使し、いろいろと質問。一時は英語の勉強をしていたこともあるが、「結局は気持ちがあれば大丈夫」と笑う

第二十八番大日寺と第二十九番国分寺のほぼ中間地点にある高知県香美市の「松本大師堂」は、弘法大師を祀った小さなお堂。江戸時代に建立されて以来、松本地区の住民たちが大切に守り続けている。お遍路さんはお堂で休憩し、一夜の宿にする人もいた。しかし、時の流れとともに老朽化が進み、地区の人たちはその都度、修繕していた。「それがいよいよ危ないという話が出始めた頃、『四国八十八ヶ所ヘンロ小屋プロジェクト(※1)』の話をいただいたんです」と説明するのは、お接待活動の代表である依光栄(よりみつさかえ)さん。

必要な費用は、地区の人たちを中心に800人以上の寄付によって賄われ、修復工事が実施された。2008年(平成20)、生まれ変わった松本大師堂を前に、依光さんらは「このお堂でお接待をしよう」と思い付いた。「お遍路さんを力付けることはもちろんですが、高齢化が進む松本地区にあって、みんなが定期的に集い、交流することができたらいいなと思って」。

以来、弘法大師の月命日にあたる毎月21日に、大師堂でお接待を行ってきた。また、日常的にお堂の清掃やお供え、併設するトイレの管理などを行っている。

※1:建築家・歌一洋(うた いちよう)氏と(一社)四国八十八ヶ所ヘンロ小屋プロジェクトが実施している、歩き遍路の道中で休憩・仮眠できる「ヘンロ小屋」をボランティアでつくる取り組み。施工費を寄付によって賄い、全89棟の完成を目指している(現在は59棟が完成)。

言葉よりも有効な笑顔のコミュニケーション

箸を上手に使って麺をすするフランス人お遍路さんの様子に、目を細める住民たち。「おいしい」の言葉が何よりのご褒美となる
箸を上手に使って麺をすするフランス人お遍路さんの様子に、目を細める住民たち。「おいしい」の言葉が何よりのご褒美となる
立ち寄ったお遍路さんにメッセージを書いてもらう「自由ノート」。時折読み返して、仲間内で思い出話をすることもあるという
立ち寄ったお遍路さんにメッセージを書いてもらう「自由ノート」。時折読み返して、仲間内で思い出話をすることもあるという
「とにかく無事に、歩き通してほしい」と、重い荷物を背負って旅立つお遍路さんをやさしく見送る。時には涙ぐむお遍路さんもいるそう
「とにかく無事に、歩き通してほしい」と、重い荷物を背負って旅立つお遍路さんをやさしく見送る。時には涙ぐむお遍路さんもいるそう
「自分の気持ちを強くしたくて、四国遍路にトライしました」と話すのはフランス人のジョゼフさん。心づくしのお接待に感動したそう
「自分の気持ちを強くしたくて、四国遍路にトライしました」と話すのはフランス人のジョゼフさん。心づくしのお接待に感動したそう
「無理をしないのが長続きの秘訣」と話すのは、活動を引っ張っている依光さん夫妻。力仕事は夫の孝夫さん(左)が支えている
「無理をしないのが長続きの秘訣」と話すのは、活動を引っ張っている依光さん夫妻。力仕事は夫の孝夫さん(左)が支えている
冷やした出汁がおいしいそうめんは、疲れたお遍路さんにも食べやすい
冷やした出汁がおいしいそうめんは、疲れたお遍路さんにも食べやすい
箸を上手に使って麺をすするフランス人お遍路さんの様子に、目を細める住民たち。「おいしい」の言葉が何よりのご褒美となる
立ち寄ったお遍路さんにメッセージを書いてもらう「自由ノート」。時折読み返して、仲間内で思い出話をすることもあるという
「とにかく無事に、歩き通してほしい」と、重い荷物を背負って旅立つお遍路さんをやさしく見送る。時には涙ぐむお遍路さんもいるそう
「自分の気持ちを強くしたくて、四国遍路にトライしました」と話すのはフランス人のジョゼフさん。心づくしのお接待に感動したそう
「無理をしないのが長続きの秘訣」と話すのは、活動を引っ張っている依光さん夫妻。力仕事は夫の孝夫さん(左)が支えている
冷やした出汁がおいしいそうめんは、疲れたお遍路さんにも食べやすい

お接待の日は、朝9時頃から一人、また一人と住民が集まってくる。各自が心尽くしの料理を持参し、テーブルにずらりと並べる。10時頃には20人以上の住民が集まっていて、歩きのお遍路さんが通りかかると、「ひと休みしていかんかね?」と声をかける。福岡県からのお遍路さん・阿蘇品(あそしな)タエ子さんは、これまでに7度結願し、うち5回は歩いて巡礼した。「昨年、ここでお接待をしていただき、とても感動しました。今年は21日にここに立ち寄れるように巡っていたんです」。

最近は、海外からのお遍路さんが多い。「カタコトの英単語とスマホの翻訳アプリ頼み。でもね、ハローとプリーズ、笑顔があればなんとかなるものよ」と笑う。その日もドイツ、台湾、フランス、中国からのお遍路さんをお接待した。特製のそうめんや豆ごはんでお腹を満たし、地区の人との交流を楽しんだお遍路さんは、重いリュックを背負い直して、次の札所へと向かっていった。

「松本大師堂」のお接待は、来年5月に20年目を迎える。不思議なことに、悪天候で中止した日は一度もない。「当番を決めているわけではないのに、ちゃんと役割分担ができて、続いているの。地域の絆こそが、お大師さんのご利益なのかもしれない」と話す依光さんだ。

お接待所は情報交換の場 双方が得られる大切なもの

松本大師堂では、お接待の日に近隣の僧侶が交代で法話をする時間を設けている。国分寺で法務係を務めている小笠原廣峰さんは、自身も歩き遍路の経験がある。お遍路さんの気持ちに寄り添うことができ、悩み事を聞くこともある。少しでも心を軽くしてもらいたいというのが願いだ。

小笠原さんは、お接待所は大切な役割を担っていると考えている。「かつて四国の人たちは、お接待を通じて、諸国から来たお遍路さんに、さまざまな情報をもらっていました。情報過多な現代社会ですが、生身のコミュニケーションから得られるものは小さくないはずです」。する側にも、される側にもかけがえのない体験となるお接待。小笠原さんはここで得たものを、僧侶としての自分の肥やしにしたいと考えている。

国分寺で法務係を務めている小笠原廣峰さん
「松本大師堂の皆さんの笑顔に、私も元気をいただいています」と話す

松本大師堂

住所
高知県香美市土佐山田町松本

歩き遍路接待処 風自遊庵(ふじゆうあん)

たくさんのお接待の恩返しをしたい!

これまでの活動により、高知家おもてなし県民表彰を受賞した石坂さん(右)と妻の享子さん(左)
これまでの活動により、高知家おもてなし県民表彰を受賞した石坂さん(右)と妻の享子さん(左)
四国遍路や四国の風土の虜になった草間さんは、長期の休みの度に歩き遍路をしている
四国遍路や四国の風土の虜になった草間さんは、長期の休みの度に歩き遍路をしている
旧道沿いにあるお接待所。お接待をする日には、庭先に看板や幟を出している
旧道沿いにあるお接待所。お接待をする日には、庭先に看板や幟を出している
お茶やコーヒー、お菓子などでおもてなし。この日は地元の甘酒を添えて出した
お茶やコーヒー、お菓子などでおもてなし。この日は地元の甘酒を添えて出した
これまでの活動により、高知家おもてなし県民表彰を受賞した石坂さん(右)と妻の享子さん(左)
四国遍路や四国の風土の虜になった草間さんは、長期の休みの度に歩き遍路をしている
旧道沿いにあるお接待所。お接待をする日には、庭先に看板や幟を出している
お茶やコーヒー、お菓子などでおもてなし。この日は地元の甘酒を添えて出した

2015年(平成27)4月から、自宅の庭でお接待所「歩き遍路接待処 風自遊庵」を始めたのは、石坂俊之さん、享子さん夫妻。場所は第三十六番青龍寺と第三十七番岩本寺の間に位置している。関東で長く暮らしていた石坂夫妻は、定年退職を目前に控えて、「元気なうちに、第二の人生を新たな場所で歩もう」と、キャンプで訪れたことのある高知県にやってきた。「せっかく四国にきたのだからと、仕事の休みを利用して妻と歩き遍路をしているとき、さまざまなお接待で励ましていただきました。恩返しとして、お接待所を始めたんです」と話す。

当初、庭にアウトドア用のパラソルやテーブルを置いてお遍路さんを迎えていたが、近所に住む大工さんが日差しを避けるための屋根を造作し、テーブルを贈ってくれた。快適な環境のなか、ガーデンカフェさながらに、飲み物やお菓子などを提供している。

こうした茶菓だけではなく、石坂さんならではのお接待がある。「それは情報です。第三十七番から第八十八番まで、善根宿(※2)や手頃な価格で泊まれる遍路宿、きれいな公衆トイレ、お接待所などを妻と歩きながらチェックし、おすすめをお遍路さんに伝えています」。インターネットの情報は便利だが、玉石混交であることも否めない。少しでも、安心して巡ってもらいたいと、石坂夫妻は労力を惜しまない。

※2:お接待の一つ。無料か実費程度で宿泊できる宿。

街おこしとお接待に力を注ぐ

2020年(令和2)、四万十町に賑わいを取り戻すための活動を進める「(一社)しまんと街おこし応援団」の中心メンバーとなった石坂さん。「街おこしの活動が忙しく、風自遊庵を開くのは不定期となってしまいました」。

それでもお接待を行う日には、夫婦で温かくお遍路さんを出迎えている。気持ちの良い晴天のある日、久しぶりに風自遊庵が看板を出した。北海道札幌市から来た草間敬司さんは、休暇を利用して区切り打ち(※3)をしている。「ここに来たのは初めてですが、人生経験豊富な石坂さんとの会話は、これからの生き方の参考になります」と話す。

もちろん、お遍路さんとの会話は石坂夫妻にとってもエネルギー源。これからも縁あって移住した高知県で、街おこしとお接待をライフワークとして歩んでいく。

※3:途中で休みをはさみ、複数回に分けて巡礼する方法。

歩き遍路接待処 風自遊庵

住所
高知県高岡郡四万十町仁井田872-4

お遍路さんの休憩所 雪壽庵(ゆきじゅあん)

第二の人生は遍路文化の支え役に

自身の四国巡礼体験を生かして執筆した小説。「遍路とは何かという自分の考えをストーリーに託しました」と有田さん
自身の四国巡礼体験を生かして執筆した小説。「遍路とは何かという自分の考えをストーリーに託しました」と有田さん
有田さんと話すことで、晴れやかな気持ちになったお遍路さん。合掌しながら、有田さんは笑顔で出立を見送る
有田さんと話すことで、晴れやかな気持ちになったお遍路さん。合掌しながら、有田さんは笑顔で出立を見送る
冷蔵庫には、支援者から寄付された飲み物が冷やされている。時期によっては温かい飲み物を提供するなど心遣いは細やか
冷蔵庫には、支援者から寄付された飲み物が冷やされている。時期によっては温かい飲み物を提供するなど心遣いは細やか
お接待で提供しているはがき。「石抱きアコウ」のイラストは、地元の方が着色してくれたそう
お接待で提供しているはがき。「石抱きアコウ」のイラストは、地元の方が着色してくれたそう
自身の四国巡礼体験を生かして執筆した小説。「遍路とは何かという自分の考えをストーリーに託しました」と有田さん
有田さんと話すことで、晴れやかな気持ちになったお遍路さん。合掌しながら、有田さんは笑顔で出立を見送る
冷蔵庫には、支援者から寄付された飲み物が冷やされている。時期によっては温かい飲み物を提供するなど心遣いは細やか
お接待で提供しているはがき。「石抱きアコウ」のイラストは、地元の方が着色してくれたそう

高知県の遍路道には、数々の絶景がある。その代表とも言えるのが、土佐清水市の足摺岬。ダイナミックな海岸線や激しく打ち寄せる波など、絵画を思わせる景色が広がる。ただ、第三十八番金剛福寺から第三十九番延光寺までの道のりは、50km(※4)以上もあり、しかも高低差があるお遍路さん泣かせの道だ。そんなお遍路さんが立ち寄って力をもらっているのが、松尾地区の「お遍路さんの休憩所 雪壽庵」。運営をしている元中学校教師で作家の有田久哉さんは、2016年(平成28)、定年退職を機にお接待所を開いた。「建物は親戚が所有する空き家を譲り受けました。自分の隠れ家でもあります」と笑う。

現役時代も含めて、数度の巡礼をした有田さん。その経験をもとに遍路小説を執筆。合間には地区の住民とともに、遍路道の整備や清掃活動などを行ってきた。ただ地域の方が高齢化してきたこと、有田さん自身が持病を抱え、視力が衰えてきたことから、そうした活動は途絶えてしまった。

それでもできることを…と、立ち寄った方に、寒い日には温かい飲み物、暑い日には冷たい飲み物を出している。加えて「今の自分にできる最大のお接待は会話。ここまで歩いてこられたお遍路さんは、心身ともに疲弊しています。そうした方に、気分を軽くしてもらえるよう『無理をしなさんな』と声がけしています」。

もう一つ、アイデアに満ちたお接待がある。松尾地区にある「石抱きアコウ」という奇樹が描かれている絵葉書(郵便はがき)だ。家族や友人に、旅の無事を知らせてほしいと始めた。「以前、絵葉書を差し上げたら、『ここだったのか!』と驚かれた方がいました。聞けば、知り合いからこの絵葉書を送られたことがあったそうです」。

1200年という長い年月にわたり、四国遍路が受け継がれてきたのは、お接待の力が大きいと考える有田さん。かつて、お遍路さんのなかには病に冒(おか)された人、事情があり故郷を追われた人などもいたと聞く。「お遍路さんに弘法大師の姿を見て、道中の無事を祈り、物心両面で支えた四国の人たちが、遍路文化を今につないだ陰の立役者ではないでしょうか」。

「雪壽庵」には、この10年で1000人以上のお遍路さんが立ち寄った。正月と通院時以外は無休。新作の執筆を進めながら、有田さんは今日もお遍路さんを待ち続けている。

※4:歩く場合の距離。自動車が走れる道なら60km以上。

お遍路さんの休憩所 雪壽庵

住所
高知県土佐清水市松尾65