1.事象発生の状況 |
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伊方発電所第3号機(定格電気出力890MW)は、定格熱出力一定運転中のところ、平成16年3月9日9時57分頃、1次冷却材ポンプへの封水注入系統の流量低下を示す信号が発信した。このとき、充てんポンプ3Cを点検中の保修員が、当該ポンプの封水部から1次冷却水が漏えいしていることを確認したため、直ちに充てんポンプ3B(予備ポンプ)を起動し、当該ポンプを停止した。
その後、充てんポンプ3Cを点検した結果、3月15日、ポンプ主軸が軸端部から2枚目の羽根車(第7段)のスプリットリング溝部で折損していることを確認した。
また、補助建屋排気筒ガスモニタの指示値が一時的に上昇したが、発電所周辺に設置しているモニタリングポストには有意な変動はなく、本事象による外部への放射能の影響はなかった。 |
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2.調査結果 |
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(1)状況調査結果(図1) |
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外観目視点検等の結果、ポンプ主軸が軸端部から2枚目の羽根車(第7段)のスプリットリング溝部軸端側で折損していた。また、継手側封水部のメカニカルシールに割れ、軸受部の油切り付近の変色、フィンの変形、主軸ジャーナル部の摺動痕等が認められた。
ポンプ主軸より羽根車を取り外し、折損個所を除くスプリットリング溝部の浸透探傷検査を実施した結果、有意な指示は認められなかった。 |
(2)破面等調査結果(図2) |
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調査の結果、破面が平坦で、粒内割れおよびビーチマーク等が観察されたことから、主軸のき裂は、低応力高サイクル疲労によるものと判断した。なお、材料・製作・施工調査では異常はなかった。 |
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[主な破面調査結果] |
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破断部は、軸方向に対してほぼ垂直、破面は全体にほぼ平坦であり、起点部には疲労破壊に特有のビーチマークが認められた。 |
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最終破断部と推定される延性破壊した部分が、き裂Aから約180°の位置に1箇所認められた。 |
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起点部および最終破断部を除く破面では、粒界および粒内割れが混在した破面が認められた。 |
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起点部には、ストライエーションは認められず低応力高サイクル疲労破壊に特徴的な粒内割れが認められた。 |
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2箇所の起点部(き裂A,B)において、材料欠陥、顕著な機械加工傷等は認められなかった。 |
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(3)疲労発生の調査 |
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折損部の形状、接触痕の有無、運転に係る履歴等を調査し、疲労要因となるような変動応力発生の有無を確認した。 |
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a. |
第7段スプリットリング溝部の測定を実施した結果、溝部コーナの曲率半径が設計値0.8mmであるのに対し、継手側(破断部の反対側)溝部のR止まりの曲率半径は0.3〜0.6mm程度であった。このことから、折損部においても同様に曲率半径が小さくなっていたものと推定され、当該部に応力が集中しやすくなっていた可能性がある。(図3) |
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b. |
第7段スプリットリングの詳細調査の結果、当該リングの軸端側の面に接触痕が認められたことから、羽根車焼嵌時に温められた主軸が収縮し、スプリットリングと主軸の接触による溝部への応力発生の可能性がある。(図3) |
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c. |
起運転記録を確認した結果、定期検査時に体積制御タンクを大気開放状態にして充てんポンプの運転が行われていた。この場合、ミニマムフローラインに設置されている流量制限オリフィス出口の圧力が低下し、空気の気泡が発生、この気泡が充てんポンプに流れ込み、第1段羽根車での流体力のアンバランスによる機械的な振動が発生する可能性がある。(図4) |
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3.損傷要因の推定 |
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調査の結果で抽出した疲労要因から、高サイクル疲労によるき裂の発生・進展について評価した。 |
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(1)き裂の発生要因(図5) |
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a. |
スプリットリング溝部コーナのR止まりへの応力集中
R止まりの最小曲率半径を0.3mmとして応力集中係数を3次元FEM解析により算出した結果、応力集中係数は、曲率半径設計値(0.8mm)の場合に比べて1.25〜1.76倍であった。 |
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b. |
スプリットリングと主軸の接触による発生応力
第7段スプリットリングの軸端側の面に接触痕があり、当該スプリットリングを介して溝部に荷重が作用していたものと考えられる。
この荷重を、羽根車焼嵌グリップ力相当と想定し、評価した結果、第7段スプリットリング溝部の発生応力は128N/mm2であった。 |
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c. |
定期検査時の体積制御タンク大気開放時の気泡流れ込みによる発生応力
第1段羽根車での流体力のアンバランスによって起こる機械的な振動による発生応力を評価した結果、第7段スプリットリング溝部で大きな応力となり、発生応力は238N/mm2であった。 |
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d. |
発生応力および疲労強度評価
通常のポンプの運転により発生する応力に加え、上記a〜cを考慮し、各段のスプリットリング溝部の発生応力を評価した。その結果、第7段スプリットリング溝部の平均応力は185N/mm2、変動応力は279N/mm2となり、設計値を上回る過大な応力が発生することが確認されたことから、体積制御タンク大気開放時の充てんポンプ運転時に、溝部表面にき裂が発生する可能性がある。
なお、その他の段のスプリットリング溝部の発生応力では、大気開放時でもき裂は生じないことが分かった。 |
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(2)き裂の進展評価(図5) |
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a. |
定期検査時のき裂の進展
上記(1)dにて算定した応力が、その後の定期検査中における体積制御タンク大気開放時の充てんポンプ運転に伴いスプリットリング溝部に加わり、き裂が最終ビーチマークの深さである7.6mmまで進展したものと推定される。 |
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b. |
通常運転中のき裂の進展
き裂の深さと、疲労き裂が進展する限界の変動応力を解析した結果、き裂の深さが7.6mmに達すれば、スプリットリング溝部に10N/mm2の変動応力が加わると、き裂が進展する。
一方、充てんポンプの通常運転により第7段スプリットリング溝部に発生する応力は10N/mm2であった。したがって、き裂の深さが7.6mmに達すると、充てんポンプの通常運転により発生する応力によっても、き裂が進展するものと推定された。
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4.事象発生の推定原因 |
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(1) |
工場での製作段階において、第7段スプリットリング溝部コーナのR止まりの曲率半径が小さく、応力集中係数が大きい状態で製作されるとともに、当該部スプリットリングと主軸の接触により、溝部に応力が発生したと推定される。これに加えて、定期検査時における体積制御タンクを大気開放にした状態での当該ポンプの運転によって第7段スプリットリング溝部に発生した応力により疲労限度を超えたため、き裂が発生したと推定される。 |
(2) |
その後の定期検査において、同様のメカニズムによりき裂が徐々に進展した。前回第7回定期検査終了後の通常運転状態となった時点までに、き裂が大きくなったことから、プラント通常運転中のポンプ運転でもき裂が進展して、最終的に主軸が破断したと推定される。 |
(3) |
主軸折損により、主軸(継手側)が移動し、継手側封水部を損傷させ、1次冷却水の漏えいに至ったものと推定される。 |
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5.その他のポンプの調査 |
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(1)充てんポンプ3A,3B |
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充てんポンプ3A,3Bの製造履歴、運転・保守状況、配管系統等について調査を実施した結果、製造履歴調査により、3A,3Bのロータ振れ計測値は、3Cに比べ極めて小さく良好であったことなどから、3A,3Bについては、スプリットリング溝部への過大な応力は発生していないと考えられる。
また、今回の事象は、 |
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スプリットリング溝部コーナのR止まりへの応力集中 |
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スプリットリングと主軸の接触による発生応力 |
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定期検査時の体積制御タンク大気開放時の気泡流れ込みによる発生応力 |
の3つの厳しい条件が重畳したため、発生したものである。
以上のことから、3A,3Bについては、同様の事象の発生可能性は低いと考えられる。
なお、充てんポンプ3A,3Bの監視強化を行っており、運転時の異常兆候を速やかに検知し、万一兆候が認められれば、直ちに充てんポンプを停止することとしていることから、今回と同様な事象による環境への放射性物質の放出はない。 |
(2)その他ポンプ |
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伊方1,2号機の充てんポンプは形式が異なり、同様の事象は発生しない。また、充てんポンプ以外の安全上重要なポンプ等についても、今回事象の3つの発生要因が重畳するおそれのあるポンプはない。 |
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6.対 策 |
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(1) |
充てんポンプ3Cの主軸は予備品と取り替える。 |
(2) |
充てんポンプの運転については、必ず体積制御タンクを加圧した状態で運転することとし、内規の改定を行う。 |
(3) |
充てんポンプ3A、3Bについては、念のため、主軸の改良および製作段階における品質管理の強化を行ったうえ、次回定期検査終了までに順次取り替える。なお、それまでの間は、電流、振動等の運転監視強化を継続し、安全運転に万全を期す。 |
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