四国電力が始めて海外IPP(独立系発電事業者)プロジェクトへ参画したのが、カタールのラスラファンC発電・造水プロジェクトでした。カタールは砂漠の国で、水が非常に少ない場所です。同プロジェクトでは、火力発電で電気を作るとともに、その際にボイラーで生じる排熱を有効利用して海水から飲料水を生成します。発電容量は2730MW、造水容量は29万t/日。世界最大級の超巨大プラントです。2008年夏からから建設着工して、2011年に全面運転を開始し、現在も順調に運転しています。私は2009年夏から2012年1月まで現地に駐在しましたが、建設が始まった頃は、ラスラファンから南へ約85kmにある首都のドーハですら世界チェーンのホテルが数軒あるくらいの小さな街でした。それが今では高層ビルや商業施設などが建ち並ぶ大都市へと変貌しています。その発展に貢献できたことは誇らしく思います。
プロジェクトの初期段階に四国電力から派遣された私の役割は、保守体制を構築することでした。私が保守の責任者の一人として現地駐在し、その下に3、4人のリーダーとなる現地エンジニアを置いて総勢40-50人の保守チームを整える計画で、そのリーダー達の採用にも関わりました。カタールでリーダーとなるエンジニアにはインド人やパキスタン人が多いのですが、それぞれにお国柄があります。インド人は非常に優秀だがプライドが高くて自己主張が強く、一方で、パキスタン人は人柄が良い反面控えめなところがある。しかし当時の私には彼らの顔すら見分けられず、採用の経験もなかったことから、人選には本当に苦労しました。ただ、その時に採用したメンバーは最初から辛苦を共にしたこともあり、主張の強い彼らも本当に困った時には何度も助けてくれました。実際に保守業務の実務が始まってからもすべてが手探りでした。日本からのサポートは受けられるのですが、どんなサポートを頼めばよいのかも分からない状態。それでも、どうにか無事にやり終えることができたのは、多くの現地関係者と信頼関係を構築し、情報交換できたからだと感じています。日本人は無口でシャイだと言われますが、話さなくても相手の心情を察することには長けている面があると思います。この方法が海外の人との理解を深める上で非常に役立ちました。言葉だけに頼らない日本人らしいコミュニケーションは、世界でも通用する見えない武器だと思います。
現地で働いている時に、忘れられない出来事がありました。バケーションシーズンに社長と所長が同時に1週間の休みを取ったことがあり、その間、私が一時的にプラントの責任者となったのです。普段は保守業務しか担当していなかったので、世界屈指の巨大プラントの全責任を突然背負うことになり、非常に大きなプレッシャーを感じました。もし何かあったらどう判断したらよいのか…余計な心配や不安が押し寄せて怖くなったことを覚えています。結果、大きなトラブルはなかったのですが、あらためて安定運転の大切さや責任を痛感すると共に、四国電力の自社発電所での安定運転を継続する大変さを再認識しました。どのようなプロジェクトであっても作ることばかりに注力していたのではダメで、しっかり確実に動かすことを大切にしなければいけない。そのことを実体験から学ぶことができました。
会社も私も初めての海外でのIPP事業ということで苦労したことは多かったですが、思い返すと「任期の最後までやり切れて良かったし、充実していた」というのが正直な気持ちです。現地で働く日本人駐在員とは業種を越えて仲良くなりました。似たような悩みを抱えているので、共通の話題で意気投合することがよくあります。そういった関係は面白いもので、思いがけない場所でばったり再会することが少なからずあります。私は南米チリの太陽光事業にも関わっていますが、カタール案件に携わっていた頃に一緒に仕事をした関係者にチリ現地で出会いました。海外で仕事をしていると、世界を狭く感じます。カタールの友人なら10時間程度で会いに行けるな、という感覚。国際事業部は世界とつながる仕事です。