パワーアップ講座~プロフェッショナルのミカタ~

電気が導くサクセス

神村 護 氏

ポイント2.電化厨房のメリットと導入の注意点

◎十分に吸収可能なイニシャルコスト

まず電化厨房の利用で成功した、先進的な事例を紹介したい。コロッケの一流ブランド店で知られ、百貨店の食品売り場を中心に積極的な出店を行い、デリ市場のトップランナーとして急成長を続けるある会社では、IHフライヤーを大量導入している。

IHフライヤーでコロッケを調理

百貨店の食品売り場は地下に置かれることが多い。地下の売り場で大量のコロッケを調理するには、加熱性能が高く、短時間で調理ができ、しかも排気や油煙などで空気を汚さない事が強く求められる。
このため、この会社では、90年から1店あたり平均5台のIHフライヤーを導入し、1台で1日平均2,000個のコロッケを揚げている。

同社の厨房設計担当者は「IHフライヤーは、加熱の立ち上がりが極めて速く、長時間一定の温度を自動的に保ってくれます。しかも油煙が上がらないので、空気を汚さず、壁面などの汚れも極めて少ない。安全でメンテナンスしやすく油の酸化も少ないので、安全管理が容易で、コスト低減にもつながる点に大きなメリットを感じます」と証言してくれた。限られた立地条件と店舗空間の中で生産性と労働効率を高めるために、IHフライヤーを導入したのである。

IHフライヤーの導入によるメリット
●安全管理コストやメンテナンスの削減
●人件費や製造コストの削減

導入の結果、危機管理コストやメンテナンスコスト、人件費や製造コストの削減によるローコストオペレーションの仕組みが構築された。それが、ライバル店を圧倒する積極的な店舗展開を可能にしたのである。こうした典型的な成功事例がありながら、今なお「電化厨房はイニシャルコストが高い上、火力も弱く、ランニングコストも高い」という先入観が根強い。果たしてそれは本当なのだろうか。

まず、イニシャルコストから考えてみよう。電化厨房機器とガス厨房機器を比べた場合、確かに全般的には電化厨房機器の方が高いが、近年その差も縮まってきている。厨房メーカー数社に希望小売価格をベースに機器の値段のみで比較してもらったところ、各社の担当者も「依然としてイニシャルコストは電化厨房が高いが、その普及により機器の価格が低下し、差は数%以内にまで縮まってきた」と口をそろえる。

これをどう見ればいいのか。私どもNRD研究所の調査したところ「イニシャルコストの差は、従来から使用されてきたガス機器と電気厨房機器との価格差」だが「排気工事(別途工事)においては、排気量を従来型厨房の2分の1とすれば、コストダウンが可能」なことが判明したのである。

一般に、電気を熱源とする調理器の熱効率が概ね85%なのに対して、燃焼式の機器は40~50%と低く、全発熱量の半分以上が廃熱として放出される。また燃焼に伴う二酸化炭素や水蒸気の排気や、油煙のコントロールも不可欠だ。そのため、天井を高くしても大型排気ダクトを設置しなければならない等、排気設備工事の大型化が避けられない。さらに、発熱機器は安全性を見込んだ配置が必須なので、一定以上の厨房面積も必要になる。

すなわち、厨房の電化による排気工事のコスト削減や、厨房面積の削減効果も勘案すれば、電化厨房と従来の燃焼式併用型厨房とのイニシャルコストの差は、現状ではほとんどなくなっているのだ。

厨房電化でもたらされるメリット
●排気工事のコストダウン
●厨房面積の削減

それどころか、電化厨房の大きな特徴「厨房レイアウトの自由度の高さ」を生かす工夫を積み重ねることで、トータルなイニシャルコストの改善に結びつくはずだ。燃焼式機器と異なり輻射熱などの影響が少ない電化厨房は、発熱機器の上にも電子レンジ等の別の機器や食器ケースを設置できる等、厨房空間の立体的な活用が可能になる。

調理作業のマニュアル化と厨房空間の立体的活用を実現すれば、調理作業員1人あたりの作業効率が高まり、生産性向上に大きく寄与できる。そして厨房のコンパクト化は、客席の営業面積増・客席数増をもたらし、採算性をも向上させる。

厨房のコンパクト化 ●客席の営業面積増
●客席数増
採算性を向上

家賃の高い現代、飲食店経営者は店作りに当たってまず、坪効率を念頭に置く必要がある。そのため、どの店でも厨房をぎりぎりまで詰め、1席でも多く客席を確保しようと苦心しているが、燃焼式の従来型厨房では限界がある。

カウンター席を活用できるオープンキッチンは、その解決策のひとつだが、客席数確保という意味では、その効果を十分に取り込めるのは限られた店舗規模と業種業態の店だけだ。また作業効率を無視し、スペース効率のみ優先した厨房のコンパクト化は、作業能率の低下や商品の品質低下を招きやすく、結局はマイナスになってしまう。

しかし厨房内を立体的に活用できる電化厨房なら、厨房面積を無理なく削ることができる。

◎最大のメリットは人件費の大幅削減

ではランニングコストはどうだろう。

和食レストランのイニシャルコストとランニングコストの比較

■設定条件
使用電気厨房機器は高出力電磁調理器10台、コンベクションオーブン1台、低電圧グリラー1台、フライヤー2台、蒸し器1台、食器洗浄機1台、ブースター1台、瞬間湯沸器1台、炊飯器2台、ウォーマーテーブル3台、電子レンジ1台、茶用湯沸器と酒潤器計7台、冷蔵庫と製氷器計12台、その他6台

    オール電化厨房 従来型厨房
イニシャル
コスト
厨房設備
工事一式
100 82
ランニング
コスト
厨房 100 101
空調 100 133
電灯 100 88
水道 100 247
100 127
※NRD研究所調べ(2003年)

実はランニングコストの比較では、90年当時から電化厨房の方が有利だったのだ。表を見ていただきだい。電化厨房のランニングコストを100とすると、従来型の厨房は127。さらに立地条件等が異なるが事例店と同系列で、改装でオール電化厨房を導入した店の改装前後の数値を比較したところ、この場合も差はほぼ同水準であった。各項目を見てみると、エネルギーコストには大きな差はない。格差が最も目立つのは水道料金。従来型厨房は電化厨房の2.5倍に近い。

この差の最大の要因は、厨房電化によるドライキッチン実現の効果だ。厨房では調理に伴う水蒸気が発生しやすいが、燃焼式機器の燃焼ガスにも水蒸気が含まれる。そのため従来型厨房では、電化厨房より厨房内の湿度はどうしても高くなる。さらに従来型厨房では、油煙などで壁面や床が汚れる。そのため衛生面等からドライキッチンの重要性は理解されていても、どうしても床や壁面・機器を大量の水で洗い流すウェットキッチンになりやすい。しかし湿気が少なく、油煙も出にくい電化厨房なら、床や機器を洗う大量の水を節約できる。

また電気厨房機器は、加熱調理機器であっても炎がでない。従って吹きこぼれ等により鍋等の外側に焦げ付きが起きないため、鍋洗いの水量・湯量も減少する。ここが電化厨房と従来型厨房との大きな違いでもある。

さて水道料金に次いで格差が大きいのは空調コストだ。電化厨房の100に対して、従来型厨房は133にもなる。この差は、厨房電化により排気量が減少した効果である。さらに排気ファンの電気容量が小さくなり、客席の空調が厨房に引っ張られることが減ったことも、この差に貢献している。

ところで、水道料金・空調コストと電化厨房に軍配が上がっているのに、電灯についてのみ従来型厨房が低くなっている。これは少しでも余分な発熱を抑えるため暗かった従来型厨房とは逆に、電化厨房ではドライキッチンの良さを生かすため、厨房内を明るく維持している結果なのだ。

さらにある和食レストランでは、調理の立ち上がりが速い10台の高出力電磁調理器の導入により、小口料理提供のための再加熱時間が3分の1から6分の1に短縮された。また調理時間ばかりではなく、調理終了後の厨房内の掃除時間も、従来の45分から15分に短縮されたそうだ。
この結果、オープンから電化厨房に慣れるまでの間は12名が働いていたが、システムに慣れた時点で8名体制に移行することができたという。表の水道光熱費の比較からは読み取れないが、実はこの人件費の大幅削減こそ、電化厨房のランニングコストの最大の特徴だ。

材料費と人件費は飲食業の2大コストだが、この削減が容易でないのは、飲食業界の「常識」とされる。飲食業界では以前から、材料費と人件費の合計の対売上高比率60%が標準とされてきた。
例えば材料費が35%なら人件費は25%という具合だが、経済情勢を考えれば、教科書通りには行かない。そして材料費比率を落とすことは、商品の品質やお値打ちを低下させるから安易には変更できない。

一方、店を動かすためには一定の員数が必要だ。そこで正社員をパート・アルバイトに切り替えるだけでなく、スタッフを効率的に活用して人件費を変動費化させる必要性が出てくる。しかし昔と違って今の時代は時給が高く、人件費負担がかなりきつくなっている。人件費率が30~40%の店も、決して少なくない。人件費の扱いがローコストオペレーション実現のポイントだと分かっていても、なかなか改善できずに放置されていたこともまた、人件費の問題なのだ。

私自身の飲食店経営体験も踏まえると、人件費がかかるのはどうしようもないという一種の固定観念は、飲食業界に蔓延している悪しき慣習のひとつとさえ言える。ところが前述の和食レストランでは、12名のスタッフを8名まで減らしている。この現実をどう見るか。仮に削減が2名でも、その浮いた人件費がいくらになるのか計算していただきたい。

そして、私が声を大にして言いたいのは、こうした電化厨房のメリットは何も特殊な事例ではないということだ。私が過去10年間にわたって電化厨房を追い続け、見聞を広めてきた経験からいっても、調理時間の短縮化や作業工程の省力化、それによる人件費削減、そして労働環境の改善効果を語る声は、驚くほど多いのである。

◎ローコストオペレーションとは

電化厨房のイニシャルコストは確かに高く、これが導入のネックになっている。しかし先ほどから述べているとおり、頭を切り替えてランニングコストに目を転じていただきたい。

図表は我々が調査した飲食店のFLコスト(F=フードコスト、L=レイバーコスト・人件費)の比率だ。詳しく記述できないのが残念だが、エネルギーが変われば自然にローコストになるという仕組みを理解していただくために作成した。ポイントは電化厨房の「立ち上がりスピードとクリーンネス」である。すぐに温まり、閉店後の掃除も楽、開店前と閉店後の貴重な時間をセーブできるのだ。

私はエンジョイという言葉が好きだ。厨房と客席が電化されることで、厨房がクリーンになり、また技術のレベルが標準化され、省力化と労働時間の短縮がもたらす余裕が新たな文化も生み出す。従業員の顔も明るくなることだろう。そしてサービスが変化し、それは確実にお客さまに伝播する。このように、飲食店の究極の役割は、お客さまにエンジョイと感動を与えることだと私は信じて疑わない。そして「パワーアップ講座~プロフェッショナルのミカタ~」を読まれた飲食業に関係する皆さんにこの考え方を共有していただけるよう熱望して止まない。

飲食店経営にかかる
コストの一般的な比率
厨房内の生産的/
非生産的作業の割合
電化厨房導入前後の
コスト割合の一般的な変化
あれほど導入時に悩んだ水道光熱費は約6~8%に過ぎない一方、フードコストとレイバーコストは60~65%に達する(フードコスト、家賃は不変と考える)
(注)現実的にはFLコストが70%に達しているケースもある
電化厨房によって非生産的な「仕込み」と「後片付け」の時間を効率化すれば、コストカットと労働時間短縮が実現する。 電化厨房によってレイバーコストを削減できれば(決してリストラではない)、イニシャルコストはリカバーできる。
※NRD研究所調べ(2010年)    

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